埼玉の偉人
私は埼玉県出身なのである。今は居住していないが、20年以上住んでいた。比較的人口が多い県なので、県民性をひとくくりにすることはできないが、自分の接した範囲では、自己主張が弱く、穏やかな人が多かった。ダサいたまと言われ、なんとなく自分達を卑下する県民性があるのかもしれない。「俺が俺が」という人がいない、というところがあるせいか、日本史上に登場する偉人が出にくい、という環境であるようだ。芸能人や宇宙飛行士等個人の能力で活躍する人はいるが、いわゆるトップに立つような総理大臣や横綱はいない。
埼玉を離れてみて、実はとてつもない偉人がいる、ということに遅ればせながら気づいたのである。東京の王子の博物館に入り、偶然その偉大さに触れ、脱帽するしかなかった。
それまでも何となく知ってはいたが、子ども時代の歴史教育でじっくり教わった記憶はない。教科書の後半に載っている近現代史の常で、あまり落ち着いて習うことがないのだろう。実際のその偉人の名前と産業界へ貢献した人、という程度の認識はあったものの、それ以上の情報はなかった。ところが知れば知るほどその偉業に驚くばかりである。
日本史上、教科書に載っているヒトから偉大な企業経営者まで、いわゆるスゴイ人はいる。しかしその埼玉の偉人は現代の経済大国日本への影響度で言うと、他に比べられないくらいとてつもない偉人なのである。
しかし、何故かあまり大きく扱われることはない。テレビドラマにもならなければ、歴史書で多くのページが割かれることもない。このあたりが、「埼玉県民らしさ」なのかもしれない。本人が巨大財閥を作ったり、多くの人を傅かせることを望まなかったせいもあるし、自分の関わった企業に自分の名前をほとんど残していないということもあるのだろう。また、時代の中で当たり前すぎるぐらい偉大な人というのは、当たり前すぎて、その当時の空気を記録する人が少ないのだろう。
農業、商業、尊皇攘夷の志士、江戸幕府幕臣&海外派遣、明治政府官僚、企業家という明治維新前後の重要なポジション(それも全く立場や利害が異なる)をくぐりぬけ、結果的に明治時代以降の日本の産業育成の「ほぼ全て」に関わっているといっても過言ではない。しかも武士や薩長土肥の出身でなく、埼玉県(武蔵国)の豪農の出にかかわらずである。
現代日本の株式会社、銀行、証券取引の基礎を作ったのはこの人なのである。徳川慶喜や明治政府の重要人物、後の財閥を形成する産業人とも深い接点があり、こんな数奇な運命をたどった人もいないので、もうちょっと歴史ドラマに出てきてもおかしくない。更に弱者を助けたり、アメリカとの友好関係維持にも熱心で、同時代の人から「尊敬されていた」人物だ。商業と道徳の両立(ただお金儲けをするだけでなく倫理を持った商売をすること)を説いたことでも知られる。
彼が関わって、名前を変えて現在も残る企業、団体の数を見ると、「え!ここも?」と思えるぐらい、幅広いラインナップである。あの銀行、あのメーカー、財閥系の冠のつかない老舗大企業はみんな関係しているのではないか?という凄さだ。一人で日本の産業をここまで発展させた人はいないだろう。後の「世界に冠たる経済大国日本を作った人」を一人上げるとすれば間違いなくこの人である。その人の名は渋沢栄一氏。埼玉県どころか、お札に刷られてもおかしくない日本の偉人である。










































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